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仮説提案書の枚数は少なめに

一生懸命に作った枚数の多い仮説提案書は自己満足で失敗する

2025年12月15日

最近、新規案件を獲得するために、仮説提案営業を進める会社が増えています。

営業担当者自らがお客さんの課題と解決策の仮説を考えて積極的に提案する営業。

 

お客さんの情報を集めて、課題を考え、商品による解決策を考え、お客さんのメリットを考える・・・一生懸命に考えてお客さんに提案。

 

しかし、お客さんから「課題がないから大丈夫、検討していないので必要ない」

うまくいかない・・・。

 

 

コールセンター会社セントCRMの営業担当Aさんは、健康食品メーカーのリーディングファーマーを2年間も訪問しているのに案件を獲得できていない。

 

そこで、仮説提案をしようと、お客さんから聞いた情報から課題と解決策、メリットを考えて提案書を作成しました。

 

Aさんが作成した仮説提案書は・・・

 

(リーディングファーマーの背景)

・健康食品市場は競争が激しい。

・健康志向が高まっているため健康食品の需要は伸びている。

・健康食品は年代別に需要が異なる。

 

(リーディングファーマーの方向性)

・競争に勝つために、年代別の需要に合った商品開発を強化していく。

・商品開発を強化するために、消費者の声を活用する必要がある。

 

(リーディングファーマーのコールセンターの状況)

・コールセンターには、クレームや商品の問い合わせ、販売している店舗、追加注文・・・、様々な問い合わせが入ってくる。

 

(リーディングファーマーの課題)

・コールセンターに入ってくる様々な消費者の声の中から年代別の需要を把握できる仕組みが必要。

 

(リーディングファーマーの解決策)

・需要を把握するために必要な問い合わせ理由を収集するコールセンターを確立する。

①.トークマニュアルの改善:問い合わせに返答する→返答した後に問い合わせの理由を聞く。

②.オペレーターの指導:リーダーがオペレーターの会話を録音し指導。

③.システムの改善:問い合わせ理由の情報から需要を分析できるシステムに改善。

 

(リーディングファーマーのメリット)

・消費者の声を活用することで、年代別の需要に対し精度の高い商品開発を進めることができる。

・競争の激しい健康食品市場で早く新商品を投入できることでシェアを拡大。

 

Aさんは、提案の説得力を増すために、以下の情報も調べて提案書に記載しました。

・健康食品業界全体の売上推移、年代別の売上推移

・競合他社の年代別の注力商品

・現在のリーディングファーマーの年代別の商品ラインナップ

 

そして、コールセンターの体制や運営方法などをまとめて、全部で20枚の提案書。

「力作の素晴らしい提案書ができた!」

 

 

翌週にリーディングファーマーを訪問して提案しました。

 

Aさん

「それでは、コールセンターの消費者の声を活用した商品開発力の強化についてご提案させていただきます」

 

Aさんは、力作の20枚の仮説提案書を30分かけて説明しました。

 

説明した後で、Aさん

「いかがでしょうか?」

 

リーディングファーマーの担当者

「・・・・・」

 

Aさんは、「あれっ、反応が悪い」と思いながら、

「御社が進めている年代別の商品開発にも有効かと思うのですが」

 

リーディングファーマーの担当者

「年代別の商品開発は、商品開発部が担当しているので私にはわかりません」

 

Aさん

「そうですか、そうしましたら商品開発部の方にお話しいただけないでしょうか?」

 

リーディングファーマーの担当者

「商品開発部もそれなりに考えているので必要ないと思います」

 

Aさん

「そうですか・・・」

 

Aさんの仮説提案はうまくいきませんでした。

 

 

実は、その翌週に同業のポータルコミュニケーションの営業担当Bさんもリーディングファーマーに仮説提案していました。

セントCRMのAさんと同じく、コールセンターの消費者の声を活用した商品開発力の強化についての仮説提案。

 

Bさんの仮説提案は、商品開発部を紹介してもらい、案件を獲得することができました。

Aさんは「必要ないと思います」と言われたのに・・・。

 

 

Bさんが作成した仮説提案書は、

・リーディングファーマーの背景と方向性

・リーディングファーマーのコールセンター状況と課題

・リーディングファーマーの解決策とメリット

 

提案書の構成も内容もAさんと同じでした。

しかし、Aさんの20枚の仮説提案書に対して、Bさんは1枚にまとめました・・・1枚の仮説提案書。

 

 

そして、リーディングファーマーの担当者を訪問し提案。

 

Bさん

「コールセンターの消費者の声を活用した商品開発力の強化について、少し考えてきたので見てもらいたいんですが」

 

Bさんは、1枚の提案書を5分程度で説明しました。

 

Bさん

「いかがですか?」

 

リーディングファーマーの担当者

「そうなんですよ、健康食品の需要を把握するって難しいんですよ」

 

Bさん

「そうなんですか、健康食品の需要って年代別に考えないといけないんですか?」

 

リーディングファーマーの担当者

「年代別でも違うけど、意外と地域によっても違うんですよ」

 

Bさん

「そうなんですね、地域別の需要を把握することも大切なんですね」

「たしかに、暑い地域と雪国では健康への影響が違うから健康食品の需要も違うのかもしれないですね」

 

リーディングファーマーの担当者

「いや、健康への影響というより、生活習慣の違いが大きいんですよ」

「食生活や運動習慣も地域によってけっこう違うので」

 

Bさん

「なるほど」

「でも、生活習慣の違いなら地域特性である程度は把握できるんじゃないですか?」

 

リーディングファーマーの担当者

「いや、うちの商品開発部で地域別のデータを集めているけど、同じ地域でも年代や性別によっても違うし、消費者の健康状態によっても違うから、消費者の属性別に需要を分析するって難しいみたいですよ」

 

Bさん

「なるほど、生活習慣だけでなく、年代や健康状態も組み合わせながら考えないといけないんですね」

「大変そう」

 

リーディングファーマーの担当者

「だから、消費者の声を集めて、需要の変化を予測するって必要だと思うんです」

 

Bさん

「そうなんですか、よろしければ消費者の声の活用方法を一緒に考えさせていただきますが」

 

リーディングファーマーの担当者

「そうですか、今は検討していないのですが、うちの商品開発部を紹介しますよ」

 

Bさん

「ありがとうございます」

 

 

リーディングファーマーの担当者は・・・

 

セントCRMのAさんの提案には、

「商品開発部が考えているので私にはわかりません」「必要ないと思います」

 

ポータルコミュニケーションのBさんの提案には、

「年代別でも違うけど、意外と地域によっても違う」「消費者の健康状態によっても違う」と、いろいろ話してくれました。

そして、「消費者の声を集めて、需要の変化を予測するって必要だと思う」「うちの商品開発部を紹介しますよ」と話が進みました。

 

なぜ、この差が生まれたのでしょうか?

 

 

大きな違いは、

Aさんの仮説提案書は20枚で、30分説明。

Bさんの仮説提案書は1枚で、5分説明。


 

みなさんがお客さんだとしたら、実際に提案を受けた時にどのように感じますか?

 

一見、Aさんの方が一生懸命に考えて提案していると感じるかもしれません。

 

しかし、仮説の提案です。

お客さんは提案を要求したり、検討しているわけではありません。

 

みなさんは、自分が要求していない、検討していないときに、20枚の資料を説明されたら・・・

真剣に聞こうとするでしょうか?右から左に聞き流してしまうことも多いのでは?

 

また、30分も一気に説明されたら・・・

提案内容を具体的に理解できず、全体を漠然と理解し、必要か否かという結論しか考えなくなるのでは?

 

リーディングファーマーの担当者も・・・

 

Aさんの20枚、30分の提案に対し、右から左に聞き流し、提案内容全体を漠然と理解し「私にはわかりません」「必要ないと思います」と結論しか考えなかったのです。

 

反対に、Bさんの提案書は1枚であり、リーディングファーマーの担当者はかまえず気楽に提案を聞くことができました。


また、1枚におさまる情報量であるため、提案書に書いてある一つひとつの情報をちゃんと読み、考えることができ、様々な情報や意見を言いやすかったのです。

 

つまり、Bさんは、リーディングファーマーの担当者と1枚の提案書を一緒に見ながらたたき台にして議論し、様々な情報や意見を収集することができたのです。

 

・年代別でも違うけど、意外と地域によっても違う

・同じ地域でも年代や性別によっても違うし、消費者の健康状態によっても違う

・消費者の属性別に需要を分析するって難しい

 

そして、議論の中でリーディングファーマーの担当者に考えさせることができました。

「消費者の声を集めて、需要の変化を予測するって必要だと思う」

 

その結果、商品開発部を紹介してもらうことができ、案件を獲得することができたのです。

 

 

仮説提案とは仮説の提案です。

当たっているかわからない提案、間違えているかもしれない提案です。

 

当たっているかわからない、間違えているかもしれない仮説提案の目的は、仮説提案に対するお客さんの反応によって本当の情報を収集することです。

仮説提案の説明を聞いてもらうことや提案内容を理解してもらうこと、20枚の力作の提案書を作成して頑張ってきたことを理解してもらうことではありません。

 

仮説提案により本当の情報を収集する。

「どこが違うのか?実態はどうか?本当の課題は?本当は何が必要?本当に大切なことは?」

 

そして、収集した本当の情報から適切な課題や提案を考える→適切な課題に対し提案する・・・そして、案件を獲得する。

 

これが仮説提案の目的です。


本当の情報を収集するための仮説提案で大切なことは、

提案に対してお客さんの反応を引き出すこと、つまり、お客さんに考えさせ、本当の情報や意見を言わせること。

 

お客さんに考えさせ、本当の情報や意見を言わせるためには、考えさせやすく、情報や意見を言わせやすい提案書でなければなりません。

・・・枚数が多くしっかりまとめた提案書ではなく、枚数が少ない軽めの提案書。

 

 

20枚の資料を一気に説明されたとき

1枚の資料を説明されたとき

 

みなさんは、どちらの資料の方が、相手と一緒に考えたり、相手に情報や意見を言いやすか?



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