市場環境のTCN
経営課題を考えるなら業界、競合、需要の3つの情報を収集する
2023年4月15日
4月に入り今期の受注を獲得するため、アカウントプラン(受注獲得計画)やお客さんへの提案を考えている営業の人が多いことでしょう。
このアカウントプランやお客さんへの提案を考えるときに必要なことの一つがお客さんの経営課 題を考え、理解すること。
しかし、なかなか考えられない・・・
工場向け技術者教育システムの営業担当Aさんが、化学メーカーのセントコーポレーションに対するアカウントプランを作成していました。
まずは、セントコーポレーションにどんな提案ができるのか?
Aさんは、上司のBさんから「提案はお客さんの市場環境や経営課題を調べてから考えるんだよ」と教えてもらったので、インターネット検索やお客さんのホームページで市場環境や経営課題を調べ、技術者教育システムに関する課題と提案の仮説を考えていました。
Aさんの仮説は・・・
(市場環境)
・製造業では採用競争が激しく技術者の採用は難しい。
・化学技術の進歩により新素材の開発が進んでいる。
・化学業界では、低機能で安価な製品と高機能で高価格な製品の2極で競争が激しい。
(セントコーポレーションの経営課題)
・技術者の減少に対し少人数での生産体制を整備。
・高機能製品に対応できる技術者を育てる教育体制の整備。
(セントコーポレーションの現場の状況)
・生産工程の中で自動化できる部分はIoTを導入し 無人化、省人化を進める。
・人で作業しないといけない部分に人材を集中して技術力の高い若手社員を育てる。
(セントコーポレーションの課題)
・熟練技術者の高度な技術を動画で習得させる必要がある。
・感と経験ではなく作業方法をマニュアル化して教育する必要がある。
(セントコーポレーションへの提案)
若手社員に対し作業マニュアルと動画で勉強できる環境を整備。
・工場内にカメラを設置し熟練技術者の作業を撮影し製品や工程ごとに作業方法の動画を作成する。
・動画ごとに熟練技術者にヒアリングして作業方法や注意事項など作業マニュアルを作成する。
上司Bさんに見てもらうと・・・
上司Bさん
「これって、ただの一般論じゃないか」
「化学メーカーのセントコーポレーションじゃなくて、自動車メーカーでも、食品メーカーでも変わらないだろう」
「この仮説の中の「生産」っていう言葉を「施工」、「工場」を「建設現場」、「技術者」を「作業者」に変えれば建設会社でも該当しちゃうぞ」
「ちゃんとセントコーポレーションについて調べないとダメだろう」
Aさん
「ちゃんと調べたんですけど」
「セントコーポレーションのIR資料に「生産体制の再構築」とか「教育体制の整備による高度な技術者の育成」って書いてあったんです」
しかし、Aさんの仮説は、
「技術者の減少に対し少人数での生産体制を整備」「人で作業しないといけない部分に人材を集中して技術力の高い若手社員を育てる」「感と経験ではなく作業方法をマニュアル化して教育する必要がある」「若手社員に対し作業マニュアルと動画で勉強できる環境を整備」
自動車メーカーでも、食品メーカーでも、建設会社でも・・・どの業界でも該当するし、変わらない。
つまり、セントコーポレーションに対する仮説ではなく、ただの一般論。
なぜ、Aさんの仮説はただの一般論になってしまったのでしょうか?
理由は複数ありますが、みなさんも探してみてください。
ある日、同僚のCさんが担当している化学メーカーのリーディングテクノロジーに対して仮説を考えアカウントプランを作成していました。
Cさんの仮説は・・・
(市場環境)
・製造業では採用競争が激しく技術者の採用は難しい。
・化学技術の進歩により新素材の開発が進んでいる。
・化学業界では、低機能で安価な製品と高機能で高価格な製品の2極で競争が激しい。
・化学メーカーの高機能製品(高機能素材)に対する需要が拡大している(取引先の自動 車メーカーや設備機器メーカーが軽量化や省エネを進めているため)。
・アジアや南米で需要が拡大している(自動車メーカーや設備機器メーカーがアジアや南米の生産を強化しているため)。
(リーディングテクノロジーの経営課題)
需要が拡大しているアジアや南米市場への進出を加速し高機能製品のシェアを拡大する。
・本社技術本部で高機能製品の開発力を強化する。
・アジアや南米市場で高機能製品の生産体制を強化する。
(リーディングテクノロジーの現場の状況)
日本とタイ、メキシコ工場の連携によりグローバル生産体制を整備。
・タイ、メキシコ工場での現地作技術者の採用による生産体制強化。
・日本で確立した教育方法によりタイ、メキシコ工場の技術者における早期戦力化。
→タイ、メキシコ工場の現地技術者に対し、新製品の投入により変化する作業方法や注意点(配合や熱処理などの調整など)への対応力強化を進める。
(リーディングテクノロジーの課題)
タイ、メキシコ工場の技術者の戦力化に対し・・・
・感と経験による教育ではなく現地の言語での作業マニュアルや動画による教育方法を整備する必要がある。
新製品の投入や製品変更に対し・・・
・本社技術本部からタイ、メキシコ工場の技術者に対し頻繁に教育、指導できる環境を整備する必要がある。
(リーディングテクノロジーへの提案)
タイ、メキシコ工場の技術者に対し採用時および新製品投入時に遠隔から教育・指導できる環境を整備。
・工場内にカメラを設置し熟練技術者の作業を撮影し製品や工程ごとに作業方法の動画を作成する。
・動画ごとに熟練技術者にヒアリングして作業方法や注意事項など作業マニュアルを作成し現地の言語に翻訳する。
・動画および作業マニュアルによりいつでも勉強できるeラーニング環境を整備する。
・本社技術本部が動画と作業マニュアルを使い遠隔で教育・指導できる環境を整備する。
Aさんの提案は「若手社員に対し作業マニュアルと動画で勉強できる環境を整備」
・・・どの業界、どの会社でも該当するただの一般論。
Cさんの提案は「タイ、メキシコ工場の技術者に対し採用時および新製品投入時に遠隔から教育・指導できる環境を整備」
・・・一般論ではなく、タイとメキシコ工場を拠点にアジア、中南米市場を拡大しようとしている、そして技術者の現地採用を進め、高機能化により新製品が増えるリーディングテクノロジーのこと。
この差はなぜ?
Aさんが調べた市場環境とCさんが調べた市場環境を比べてみましょう。
Aさんが調べた市場環境は・・・
・製造業では採用競争が激しく技術者の採用は難しい。
・化学技術の進歩により新素材の開発が進んでいる。
→業界の傾向(業界動向)
・低機能で安価な製品と高機能で高価格な製品の2極で競争が激しい。
→競争の状況(競合状況)
その結果、考えた経営課題は
「技術者の減少に対し少人数での生産体制を整備」「高機能製品に対応できる技術者を育てる教育体制の整備」とセントコーポレーションのことというより他の製造業でも該当する一般論。
そして、一般論である経営課題から考えた課題や提案もただの一般論になってしまいました。
Cさんが調べた 市場環境は・・・
・製造業では採用競争が激しく技術者の採用は難しい。
・化学技術の進歩により新素材の開発が進んでいる。
→業界の傾向(業界動向)
・低機能で安価な製品と高機能で高価格な製品の2極で競争が激しい。
→競争の状況(競合状況)
・高機能製品(高機能素材)に対する需要が拡大している。
・アジアや南米で需要が拡大している。
→顧客の需要(リーディングテクノロジーの顧客の需要)
Aさんと違い、顧客の需要が入っている。
その結果、考えた経営課題は、
「本社技術本部で高機能製品の開発力を強化」「アジアや南米市場で高機能製品の生産体制を強化」と一般論ではなくリーディングテクノロジーのこと。
そして、リーディングテクノロジーの経営課題から考えた課題や提案も一般論ではなくリーディングテクノロジーに対する課題と提案になっていました。
Aさんが考えた経営課題
「技術者の減少に対し少人数での生産体制を整備」
「高機能製品に対応できる技術者を育てる教育体制の整備」
Cさんが考えた経営課題
「本社技術本部で高機能製品の開発力を強化」
「アジアや南米市場で高機能製品の生産体制を強化」
お客さんの経営課題は、市場環境の情報を下の3つの視点で集めると適切に考えやすくなります。
「市場環境のTCN」
Trend:業界の傾向
Competitor:競争の状況
Needs:顧客の需要
この中で最も大切なものが商品やサービスの対象となる「Needs」。
この「Needs」を考えなければお客さんのビジネスや商品、サービスを考えることができません。
Aさんは、TrendとCompetitorを調べていましたが、Needsを調べていませんでした。
そのため、セントコーポレーションの課題や提案を考えられず一般論になってしまいました。
アカウントプランや提案では、お客さんのビジネスがどのように変わっていくのか?お客さんが何に力を入れていくのか?を考えることは大切です。
そのために、Trend、Competitor 、Needs の「市場環境のTCN」を調べ、考えましょう。
一般論では、お客さんに対する有効な攻め方も、興味を持ってもらえる提案も作れません。
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